撒き糊を使う四ツ井健先生の似合わせる力は、
きものを羽織って見ないと分からないし
ええっ! こんなきものがあるの???というほど
人に添って、素敵に見せてくれるきものなのです。
伝統工芸作家四ツ井健先生の作品を語るときに
撒き糊(まきのり)染めである事を語らずにはいられません。
撒き糊(まきのり)染めは、人間国宝 森口華弘先生の
染め手法としても有名です。
撒き糊(まきのり)は、餅粉を炊いて造った防染糊を竹の皮に薄くのばし、
乾燥した糊をを砕き、粒をそろえて濡れた生地に均等に撒いてゆきます。
地入れをすることで撒き糊が生地にしっかりと食い込み防染力を発揮します。
地色を引き染めした後に、糊を水洗で落とすと全体が蒔絵の梨地状に染め上がります。
撒き糊の大きな特徴は一粒々々鋭角的に角張っている事です。
季節に応じて非常に繊細な湿度管理が必要で、日々の湿度管理も重要で、
これをを誤ると撒き糊が丸くなってしまったり、場所により粒の大きさが違って
しまう等の不上がり品となってしまします。
防染糊の適度な保湿力と加工時の厳格な湿度管理が欠かせません。
大変手間がかかる高度な技と言えます。
この撒き糊染は、しかし残念ながら、技の高度さ、高コスト、販売価格が
高くなることから受け継がれにくくなってしまった技法でも有ります。
ある老舗の染め屋さんは、下記のように言っています。
「 撒き糊染は残念ながら、技術的な難度と高コスト(スペースの問題も含めて)、
を製品価格に反映しがたく、当社では現在、撒き糊を使ったきものは生産はしておりません。
このような「製品の完成度」を追求し続ける挑戦を放棄してしまった事に今は忸怩たる思いがあります。」
忸怩たる思いは、多くの関係者が感じていることです。
芸術と言えるほどの作品が作られながら
どんどん作り手が辞めてしまい、作品作りが出来ない現状なのです。
そんな中で、四ツ井健先生は、すばらしい作品を作って下さっています。
その作品は、とても手間と時間がかかり、お一人で全部なさるので
年に4反程度も出来ません。
また、撒き糊染めは、平面の布に立体感や陰影をつけることが出来て
すばらしい手法ですが、全てがそうなるとは当然限らないのです。
高いレベルの撒き糊染訪問着を何枚も羽織ったことが有ります。
「少しも変わらない私」である作品が多かったです。
「変わらない私」は、私は理解出来ませんでした。
私にだけ合わなくて、他の人には合うのかもしれないと思いました。
しかし、今はそうは思いません。
「着物」は、着ることが出来る衣です。
着て暖かいとか春らしいとかいうだけではなく
お召しになる方にどれだけ添うことが出来るかが、
どれだけすばらしい作品を作ったかという価値にもなるのではないかと思います。
その点では、作家展なども、技やセンスだけでなはく「人に似合わせる」採点も
していただきたいです。
四ツ井先生の訪問着は、その「人に似合わせる」点が、最高にすばらしいのです。
見た印象と羽織った着姿が大きく違います。
動きがあり、生き生きと躍動したような着姿になるのです。
最高の着姿の一つだと思います。