「黒百合は恋の花ああ〜」と歌に歌われます。
その黒百合で染めた牛首紬黒百合染めには、大きなロマンが込められています。
■牛首紬黒百合染めとは
牛首紬は、石川県白峰で作られる、大変限られた数の紬です。
日本三大高級紬として人気が高い紬です。
その牛首紬の中に、牛首紬黒百合染めが有ります。
黒百合の花で糸を染めて織った、数少ない限定品です。
黒百合染めは、萌黄色を染めの色としてよみがえらせたことでも有名です。
白山に咲く天然記念物の 黒百合から良い色がでるという伝承を元に、
「直接に緑の色は出せない」
と言われている萌葱(もえぎ)色を
牛首紬の生産者が長年の苦労の末に染色として完成させることができたのです。
■とても少ない生産反数
年間生産反数は、約10反です。
夏の終わりに高原に咲く黒百合の花を使います。
と言っても、黒百合の花は天然記念物に指定されていますから ほぼ同じ品種のものを入手して、環境が適した山中に球根を植えて
育てています。
しかし、高原で育てれば、高原の気候風土に左右され
思うように沢山のものがコンスタントには生育しません。
2005年には、天候の性で、まったく黒百合が採取できませんでした。
ですから、1反も黒百合染めは出来上がりませんでした。
また、1反のきものを染めるために、沢山の黒百合を使います。
1反の黒百合に、2000本の花を使います。
1本に6枚の花びらが付いていますから、12000枚の花びらを使って 1反染めます。
■直木賞作家 高橋治の小説
牛首紬を愛する小説家 高橋 治先生は、
著書「紺青の鈴」の中で
黒百合染めのことを次のように記述なさっています。
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■直木賞作家 高橋 治著 「紺青の鈴」より
P406〜408
「なにせ、天然記念物の黒百合だけに、材料の手当てが難しいのです。」
北山の声で、彩子はわれに引き戻された。
「室堂のお花畑まで登れば、いくらでも生えているんですが、
あれをとって来るわけにはいきませんから」
彩子はうなずきながら聞いた。
・・・
「日本の草木染には、直接緑色を出す染料がないのをご存知ですか」
・・・
「・・・で、あの、萌葱色は」
「ええ、直接に緑を出した初めての例だと自負しているんですが」
「・・・そうなのですか」
父の十九蔵が独自の緑色を出すために、苦労しながら自分で
緑青を作り出している姿が思い出された。
・・・
そういって、北山は自分で丁寧に煎茶を彩子の前に置いた。
「織りあがったら、あれを着物にしてお召しになっていただけませんか」
彩子は自分が聞いた言葉が信じられなかった。
思わず北山の顔を見返すと北山の眼は笑っていたが真顔だった。
「・・・・とんでもない、そんなこと」
黒百合で、しかも初めて草木染の緑を出したとなれば、
法外な値をつけて売りに出しても、その日に買手がつくに違いない。
「私たちは冗談でいっているのではないんです。
五郎も、どなたかに着て頂こうかと大分考えていたようですが
あなたしかいないということで意見が一致しました。
帯は、この色で薄く織り上げますが、どなたかに字でも書いて頂いて」
・・・
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ロマンあふれる牛首紬の黒百合染めは、長く高い満足感味わっていただける紬です。
■黒百合染めの色の特徴
栗百合で染まる色は限られ、色は
ピンク、緑、ベージュ、紫、グレーが基本です。
そして、輝くように美しい薄い色合いが
黒百合染めの色の特徴です。
透明感があり薄い色で染めた糸を
色無地や縞柄で織り現わしています。
女物だけの生産で、男物は有りません。
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