坂井教人作訪問着 彩光幽玄(さいこうゆうげん)オーロラ グレー

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坂井教人作訪問着 彩光幽玄(さいこうゆうげん)オーロラ グレーは

坂井教人先生の高い技とセンスを代表する究極の作品です。
大空に描かれるオーロラをきものという平面に見事に描ききりました。

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まれにしか見られず、その継続時間は5分から10分程度と言われ、脈打つように
明滅するオーロラは、地球に降り注ぐ高エネルギー電子が、地上からの高さが100~300キロメートルで 酸素原子や窒素分子のイオンと衝突してそれぞれ赤や緑や紫の光を放つものです。

その華やかな光を多くの色を使わずに、あえてシンプルなグレー濃淡の淡彩で清
らかな色合いにして下さった所にも坂井先生の粋と巧みさを感じます。

後ろ身頃全体をご覧下さい。

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右の肩上から斜めに引かれた美しい光の輝きは、袖上の光も伴って美しい曲線を描いています。
その線は、前身頃でカーブして、また後ろへとゆるやかに舞い降りています。

白い色のぼかしや陰影で光の強さや奥行や流れる動きを出しています。

なぜ、このシンプルな線表現のきものに、これだけの美しさを感じることが出来
るのかお分かりでしょうか?

解き明かすべきいくつかのポイントが有ります。

1)糸目友禅で全体を描くことに要する時間

この訪問着は、全体を長い細い線の糸目友禅で表現しています。
筒状になった入れ物に糊を入れて、手で押し出して引く糸目友禅は、均一な線を
引くことは技術が必要ですし、長い線であるほど難しい手仕事になります。
また、多くの時間がかかります。
それなのに、このように訪問着全体を糸目で引いて表現するというのは、本当に大変な時 間がかかることなのです。

2)線を追求する坂井先生

坂井先生の素晴らしさは多くの方が賞賛し、お手本となさっていて
構図も色もセンスも卓越したものがおありですが、その中で大きな特徴が
「線」を追求なさっていることだと私は思います。

1本の線で描ききる多くのことにとてもこだわっていらっしゃいます。

「ここだ!」という線が分かるまで妥協せず求め続けられたのです。

今は笑ってお話をなさいますが、若いころは、道で歩いていても怖くて近寄れな
かったとおっしゃいます。それほど、染めを追求し続けられたのです。

この訪問着の線は、どれも均一では有りません。
上から下にかけて細くなり、薄くなっていて、左から右へ少しの斜め線です。

どの線も大きく違うのです。

そして、どの線もエッジが効いていると思いませんか?
すばらしいシャープさで温かみが有ります

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どの線も見ていて飽きが来ないほど、色に変化と深みが有ります。

前面の右肩から始まる模様と衿から始まる模様は、ものすごく強い力で描かれて
いて、それは、とてもとても小さな美しい線と色彩で描かれた模様の塊です。

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薄い水色と藤色とクリーム色がさりげなく染められています。
大変、大変繊細で細かくて丁寧な染めが施されています。

坂井先生の「ここだ!」という見極められた線の塊で現されたこの訪問着は
すばしく確立した線の集合体であり作品です。

線で立体や陰影などを表現することを、物理的に解明することが出来る方が
いらっしゃったら、この作品の線の整合性を数字で解き明かして下さって
その確率の高さに驚かれるに違いないと思うほどです。

私たちは、そんな硬い世界ではなく、すばらしい作品をまとって、自分が主役に
なれる喜びをかみしめて楽しみましょう。

3)隠れたもう1面の線

この訪問着には、大きな種明かしをすることが必要です。

訪問着全体に引かれた斜め線を良く見ると、反対斜めに引かれた薄い線が後ろに
見えてきます。
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これはつまり、訪問着全体に、今見える線の下に同じ分量の線を
反対斜めに糸目友禅で薄く染めていらっしゃるのです。

薄くて見えないほどの色合いで反対斜め線で引いた上に、それに対抗するような斜め線 を染めているのです。
このことが、この訪問着に大きな深みと味わいを加えています。
それが奏功して、シンプルな上質さを出すことが出来ているのです。

坂井先生は、これと似た構図で、下の斜め線が無い訪問着も染められたことがあるそうですが、比較にならない見栄えだったとおっしゃっています。

布という平面に立体感を出した染色をして作品を作り上げることを追求なさる
坂井先生が追求なさった多くのものが凝縮された大きな作品です。

4)追求し作り出す構図

坂井先生の頭の中には、いつも構図が有るようです。
どんな構図にするのかと、常に求め苦しんで楽しんでいらっしゃいます。

では、構図のために、実際にオーロラを見に行かれるかというと
それでは全体が見えないのだそうです。
オーロラを見るのは、オーロラの下から見ることになります。
先生は、もっと大きな世界でオーロラを描ききる必要が有るのです。
写真を見たりして、高い位置からのオーロラを分析して布に構図を落としこんでいらっしゃいます。

坂井先生のご意志はとても高くて、広い見地からのご覧になるので
真理や核心をついていらっしゃいます。

染色で、ここまでの技とセンスの作品が出来るのだと世界に誇れる、
美術館入り級の作品です。

着姿は、とてもさりげなくて力強いです。
多くの場面でお召しいただけます。

きものを着る私たちを幸せにしてくれる作品です。

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